1. Finest Fit Guide – 池田宏実 / HIROMI IKEDA


「服が似合う人」は、何が他と違うんだろうか。シルエット? 色合わせ? それとも素材感?どれもきっと間違いじゃないけれど、決定的なのは多分、また別の部分。ジョン スメドレーのニットはシンプルで寡黙な分、着る人の個性がはっきりと映し出される。一見ずっと同じようでいて、少しずつ時代に合わせて変化をしてきたジョン スメドレーのニットウェアがよく似合う人たちの肖像と、その理由。今回は料理人 、池田宏実さんの場合。


Photograph_Kosuke Matsuki
Text & Edit_Rui Konno

「服が似合う人」は、何が他と違うんだろうか。シルエット? 色合わせ? それとも素材感?どれもきっと間違いじゃないけれど、決定的なのは多分、また別の部分。ジョン スメドレーのニットはシンプルで寡黙な分、着る人の個性がはっきりと映し出される。一見ずっと同じようでいて、少しずつ時代に合わせて変化をしてきたジョン スメドレーのニットウェアがよく似合う人たちの肖像と、その理由。今回は料理人 、池田宏実さんの場合。

Photograph_Kosuke Matsuki
Text & Edit_Rui Konno

“私の料理の先生は市場の人“



―初めて調理室池田にうかがって、実際にこの敷地に入って驚きました。外とはまた別の世界が広がっているなぁ、と。
この場所は中央卸売市場と呼べばいいんでしょうか?


“北部市場”の方がいいかもしれません。中央卸売市場は全国に60数箇所あるんですが、神奈川にいくつかある中央卸売市場の中のひとつがこの北部市場ということです。

―おしゃれなカフェとしてこのお店を認識して、いざ来たらこの立地に面食らう方もいるんじゃないですか?

そうですね(笑)。でも、全然そんなことをしようと思っていたわけではなくて。単純に料理を仕事にしていきたいなと思っていた中で偶然そうなりました。

―池田さんがこのお店を始めるまでの経緯を教えてもらえますか?

そもそもは美大を出て入った会社で飲食部門に送り込まれたんですけど、何年か働いた後に子供ができて退社したんです。その後に料理家さんのアシスタントをやってから、自分でも小さい料理教室やケータリングをやるようになって。その頃仕入れに来てたのがこの北部市場ですね。

―そうやってできた縁だったんですね。

料理家の先生にはついていたけど、私の料理はほとんど独学に近い感じで。それを突き詰めていくうちに、スーパーで売っているようなものじゃない食材を使いたくなっていったんです。一時期すごくブームになったジェイミー・オリヴァーさんっていうイギリスの料理人がいるんですけど、若かった当時の彼が市場で買い物をしてるシーンがBBCの料理番組で流れてたんですよ。それを見てると、美味しそうな魚料理がたくさん出てきて。だけど、日本のスーパーに行くとあるのはシャケかマグロかブリくらいで、切り身か刺身かっていう感じなんです。それで、もっと違う魚はないかなと思ってここに辿り着きました。

―もっとおもしろい食材が欲しかったと。

はい。でも、そうは言っても魚に関して色々わからないことも多くて。だけどここで買うときは必ず仲卸し…買い付け人の方自身がその魚や調理の仕方について教えてくれるんですよ。半ば余ったものの“おっつけ”だったりもするんですけど笑)、私としては好きな魚を説明書付きで買いに行ってた感じでした。全然知らない魚でも、説明してもらえれば何とかなりそうな気がして。途中までおろしてもらうこともありました。だから、どちらかというと私の料理の先生は市場の人ですね。

―初めて調理室池田にうかがって、実際にこの敷地に入って驚きました。外とはまた別の世界が広がっているなぁ、と。この場所は中央卸売市場と呼べばいいんでしょうか?

“北部市場”の方がいいかもしれません。中央卸売市場は全国に60数箇所あるんですが、神奈川にいくつかある中央卸売市場の中のひとつがこの北部市場ということです。

―おしゃれなカフェとしてこのお店を認識して、いざ来たらこの立地に面食らう方もいるんじゃないですか?

そうですね(笑)。でも、全然そんなことをしようと思っていたわけではなくて。単純に料理を仕事にしていきたいなと思っていた中で偶然そうなりました。

―池田さんがこのお店を始めるまでの経緯を教えてもらえますか?

そもそもは美大を出て入った会社で飲食部門に送り込まれたんですけど、何年か働いた後に子供ができて退社したんです。その後に料理家さんのアシスタントをやってから、自分でも小さい料理教室やケータリングをやるようになって。その頃仕入れに来てたのがこの北部市場ですね。

―そうやってできた縁だったんですね。

料理家の先生にはついていたけど、私の料理はほとんど独学に近い感じで。それを突き詰めていくうちに、スーパーで売っているようなものじゃない食材を使いたくなっていったんです。一時期すごくブームになったジェイミー・オリヴァーさんっていうイギリスの料理人がいるんですけど、若かった当時の彼が市場で買い物をしてるシーンがBBCの料理番組で流れてたんですよ。それを見てると、美味しそうな魚料理がたくさん出てきて。だけど、日本のスーパーに行くとあるのはシャケかマグロかブリくらいで、切り身か刺身かっていう感じなんです。それで、もっと違う魚はないかなと思ってここに辿り着きました。

―もっとおもしろい食材が欲しかったと。

はい。でも、そうは言っても魚に関して色々わからないことも多くて。だけどここで買うときは必ず仲卸し…買い付け人の方自身がその魚や調理の仕方について教えてくれるんですよ。半ば余ったものの“おっつけ”だったりもするんですけど(笑)、私としては好きな魚を説明書付きで買いに行ってた感じでした。全然知らない魚でも、説明してもらえれば何とかなりそうな気がして。途中までおろしてもらうこともありました。だから、どちらかというと私の料理の先生は市場の人ですね。



―魚に関して、間違いなくプロですもんね。

そうですね。ただ決められたメニューを毎日作るのではなく、美味しそうと思った食材を持ってきて、こんな料理がいいんじゃないかっていうイメージを湧かせながら調理してみるっていうのが動機としてもいいと私は思ってるので。この北部市場にいたら、それは枯渇しないんだろうなって。刺激が多くて、つくりたいものが溢れてるところです。

―でも、そうやって市場の方の話に素直に耳を傾ける姿勢は素敵ですね。

いやいや! 私にとっては市場の人たちは大先生ですよ。私自身は料理が下手だと思ってるし、もっと上手くなりたいと思ってるので。それに、料理自体をどんズバで教わるよりも自分で考える余地を多く残してくれるから、その方が私の仕事も残ってて楽しいですよね。

―でも、市場の方が「これはムニエルにすると美味しいよ!」とかって言われてる姿の想像があまりつかないんですが、
実際にはどんなアドバイスがもらえるんですか?


確かにそんなことは言わないかも(笑)。「結局魚は刺身か煮魚だよ!」って感じです。この人は、いつも「煮魚!」しか言わないな、って(笑)。

―光景が目に浮かびました(笑)。

世代にもよりますけど、「この魚はイタリアンの人たちがよく買っていくね」とかって言う人もいますけどね。ただ、それよりも教えてくれるのは処理の仕方とか保たせ方、選び方ですね。やっぱり買い物って楽しいじゃないですか。それが例えば洋服でも、カメラでもそうだと思うんですけど。今は買うのも情報収集もネットでできると思うけど、対面で買ったときのよさも、それはそれであると思うんです。

―わかります。ただ、それでいよいよご自身でもこの北部市場でお店をやろうと思ったのは、何が決め手だったんですか?

この箱自体が申し分ないなと思ったんです。私の主人は仕事でお店を色々とつくってきてるんですけど、「自分でも店をやりたい」っていう夢を昔から持っていて。だけど私はずっと、いまいち現実的な話に思えていなくて。でも、ある時主人が「ここだ!」って言い出したんです。それで私に「この物件のこと、川崎市に聞いてきてくれない?」って言うんですよ。私は嫌だな…と思いながらも聞きに行って。

―(笑)。そのときは北部市場にはよく来られていたけど、この空間とはまだ出会う前だったということですよね?

そうですね。それで実際に今の箱を見て、駅前とかのどの物件よりも、ここならやれそうだと、何故かはわからないけど思いました。決め手になったのは、私自身がこの北部市場でお茶を飲みたいなと思っていたこと。来るたびに、ここにカフェがあって、コーヒーが飲めたらいいな…なんて感じてたんです。魚屋さんのパイプ椅子が並べてあるところとか、八百屋さんに並んでるテーブルとか、そういう一角でジュースを出してくれたらいいのに、って。アジアのどこかの市場の一角でありそうな、そんなコーヒースタンド的なお店があったらピタッとハマるよな、とは思いました。それで主人と一緒に、ここでお店をやることにしたんです。

―魚に関して、間違いなくプロですもんね。

そうですね。ただ決められたメニューを毎日作るのではなく、美味しそうと思った食材を持ってきて、こんな料理がいいんじゃないかっていうイメージを湧かせながら調理してみるっていうのが動機としてもいいと私は思ってるので。この北部市場にいたら、それは枯渇しないんだろうなって。刺激が多くて、つくりたいものが溢れてるところです。

―でも、そうやって市場の方の話に素直に耳を傾ける姿勢は素敵ですね。

いやいや!私にとっては市場の人たちは大先生ですよ。私自身は料理が下手だと思ってるし、もっと上手くなりたいと思ってるので。それに、料理自体をどんズバで教わるよりも自分で考える余地を多く残してくれるから、その方が私の仕事も残ってて楽しいですよね。

―でも、市場の方が「これはムニエルにすると美味しいよ!」とかって言われてる姿の想像があまりつかないんですが、実際にはどんなアドバイスがもらえるんですか?

確かにそんなことは言わないかも(笑)。「結局魚は刺身か煮魚だよ!」って感じです。この人は、いつも「煮魚!」しか言わないな、って(笑)。

―光景が目に浮かびました(笑)。

世代にもよりますけど、「この魚はイタリアンの人たちがよく買っていくね」とかって言う人もいますけどね。ただ、それよりも教えてくれるのは処理の仕方とか保たせ方、選び方ですね。やっぱり買い物って楽しいじゃないですか。それが例えば洋服でも、カメラでもそうだと思うんですけど。今は買うのも情報収集もネットでできると思うけど、対面で買ったときのよさも、それはそれであると思うんです。

―わかります。ただ、それでいよいよご自身でもこの北部市場でお店をやろうと思ったのは、何が決め手だったんですか?

この箱自体が申し分ないなと思ったんです。私の主人は仕事でお店を色々とつくってきてるんですけど、「自分でも店をやりたい」っていう夢を昔から持っていて。だけど私はずっと、いまいち現実的な話に思えていなくて。でも、ある時主人が「ここだ!」って言い出したんです。それで私に「この物件のこと、川崎市に聞いてきてくれない?」って言うんですよ。私は嫌だな…と思いながらも聞きに行って。

―(笑)。そのときは北部市場にはよく来られていたけど、この空間とはまだ出会う前だったということですよね?

そうですね。それで実際に今の箱を見て、駅前とかのどの物件よりも、ここならやれそうだと、何故かはわからないけど思いました。決め手になったのは、私自身がこの北部市場でお茶を飲みたいなと思っていたこと。来るたびに、ここにカフェがあって、コーヒーが飲めたらいいな…なんて感じてたんです。魚屋さんのパイプ椅子が並べてあるところとか、八百屋さんに並んでるテーブルとか、そういう一角でジュースを出してくれたらいいのに、って。アジアのどこかの市場の一角でありそうな、そんなコーヒースタンド的なお店があったらピタッとハマるよな、とは思いました。それで主人と一緒に、ここでお店をやることにしたんです。





―市場の中のカフェと聞いて最初は意外に感じていましたけど、実際に足を運んで、それを聞いてすごくしっくり来ました。

うん。「市場っていう立地はどうなんだ?」ってよく言われましたけど、私の中では全然クリアになっていて。市場の人たちも知り合いだし、きっと誰か助けてくれるんじゃないかって。

―大きい企業じゃなかなかできなそうな決断ですよね。特にお聞きした池田さんの最初のキャリアはファッションの色も強いところだったでしょうから、余計に距離がありそうだなと。

でも、例えばアニエスべーの最初の店は元々パリにある、精肉店だったそうですし、スターバックスもシアトルの市場の一角で豆を売っていたのが1号店だっていうし、そう考えたら全然おかしくないなって。

―過去にすでにそういう象徴的な事例があったんですね。

はい。こんなにがらんとして手付かずの物件はどこにもないし、食べ物をこれだけ扱っている場所で飲食店をやるっていう筋書きはしっくり来ました。飲食の路面店なんて、例えば嵐の日だったらノンゲストのときもあると思うんです。でも、この北部市場は嵐でも雪でも、たくさんの人たちが仕事に来るわけですよ。そういう意味で、ジャンルを問わなければ集客は大丈夫だなって。人がいないと、いくらつくっても売れないけど、これなら成り立つと思いました。

―北部市場って、どれくらいの方が働いてるんですか?

正確な数はわからないですけど、駐車場だけで2000台近くあります。だから、私たちがやりたいと思う食べ物じゃなても、ここで働く人たちに受け入れられるものをと思いました。そうやって共通点、接点を見つけられればな、って。だからメニューもこの物件に合わせて全部決めました。川崎市が提示してる出店要項も「市場に出入りする買い付け人や従事している者の利便性を図る業態」となってるし、床屋さんもあるし郵便局もあって、銀行もあるっていうのがこの棟の役割なので。だから、そもそもおしゃれは別に必要とされてはいないですね。

―でも、すごくおしゃれじゃないですか。このお店。

私たち自身は自分たちのお店を、当たり前ですけどおしゃれだと言ったこともないし、そう言われることもあまり…。“おしゃれカフェ”とかって言葉自体がもう嫌ですね(苦笑)。

―その理由を聞いてもいいですか?

なんかおしゃれって、時々裏腹にこう、ネガティブな表現のときがありますよね。カフェにはおしゃれってあまり必要ない形容詞な気がしていて、もうちょっと違う言葉を探せばいいのにと思うことがあるんです。…ダメですね。余計なことを言っちゃいそうなのでこの話はやめましょう(笑)。

―(笑)。今日、スメドレーのニットポロにドリスヴァンノッテンを合わせている池田さんを見ていて、ファッションがお好
きなのはすごく伝わってきました。だから、余計に意外だったんです。


美大に行きたいと思ってアトリエに通って受かったのが服飾科で、別にファッションは嫌いじゃなかったし、それこそ「うん、おしゃれだよね!」って言われたらいいなとは思ってたから(笑)、そこに入ったんです。だけど、私は“こんな素敵なものがつくりたい!”と思っても、それが具現化できなかったんです。元々のイメージが乏しいから出来上がるものもやっぱり不明瞭で。だから、私は洋服は好きだと思っていたけど、あまり掘り下げられていないところを見ると、生み出したいと思うほど好きでもなかったんだなって気づいて。

―好きな気持ちに貴賎はないと思いますけど、度合いは色々ですもんね。

それで飲食の仕事に携わるようになって自分でも料理をつくり出すんですけど、料理はイメージもかなり明確に持てたし、それを具現化もできるから、これはできるなって。

―池田さんからはすごく地に足がついている印象を受けるんですが、服選びで背伸びしたりもされるんですか?

それはもう! 女子美に行ってからは背伸びしっぱなしでしたね。何せおしゃれと言われたくて入ってるので、それはしょうがない(笑)。ジョン スメドレーはその頃から着てました。服飾科に入ったけど、すごくデザインされたものを着ようとはあまり思っていなくて。周りを見ればデザイナーズ、アントワープ6なんかの話題も多かったけど、私はそれよりも“いいものを知ってる若い人”になりたかったんだと思います(笑)。ジョン スメドレーには、いいものを着てるっていう満足感がありました。今回も、当時着ていたような紺のニットにしようかと思ったんですけど、この色にしました。

―それは、どんな理由で?

このカラーの、"ALMOND"っていう名前が可愛いなと思って。私は普段からアーモンドパウダーを使ってるし、いつも使ってる洗双糖っていう砂糖に色合いが似てるなって。

―それはもう、おしゃれですよ(笑)。やっぱり調理室池田はおしゃれなお店です。

(笑)。でも、おしゃれかどうかはわからないですけど、スタイルとして市場で買い物するっていうのがあってもいいよな、っていうのは、実は川崎市への最初のプレゼンのときに話しました。

―市場の中のカフェと聞いて最初は意外に感じていましたけど、実際に足を運んで、それを聞いてすごくしっくり来ました。

うん。「市場っていう立地はどうなんだ?」ってよく言われましたけど、私の中では全然クリアになっていて。市場の人たちも知り合いだし、きっと誰か助けてくれるんじゃないかって。

―大きい企業じゃなかなかできなそうな決断ですよね。特にお聞きした池田さんの最初のキャリアはファッションの色も強いところだったでしょうから、余計に距離がありそうだなと。

でも、例えばアニエスべーの最初の店は元々パリにある、精肉店だったそうですし、スターバックスもシアトルの市場の一角で豆を売っていたのが1号店だっていうし、そう考えたら全然おかしくないなって。

―過去にすでにそういう象徴的な事例があったんですね。

はい。こんなにがらんとして手付かずの物件はどこにもないし、食べ物をこれだけ扱っている場所で飲食店をやるっていう筋書きはしっくり来ました。飲食の路面店なんて、例えば嵐の日だったらノンゲストのときもあると思うんです。でも、この北部市場は嵐でも雪でも、たくさんの人たちが仕事に来るわけですよ。そういう意味で、ジャンルを問わなければ集客は大丈夫だなって。人がいないと、いくらつくっても売れないけど、これなら成り立つと思いました。

―北部市場って、どれくらいの方が働いてるんですか?

正確な数はわからないですけど、駐車場だけで2000台近くあります。だから、私たちがやりたいと思う食べ物じゃなくても、ここで働く人たちに受け入れられるものをと思いました。そうやって共通点、接点を見つけられればな、って。だからメニューもこの物件に合わせて全部決めました。川崎市が提示してる出店要項も「市場に出入りする買い付け人や従事している者の利便性を図る業態」となってるし、床屋さんもあるし郵便局もあって、銀行もあるっていうのがこの棟の役割なので。だから、そもそもおしゃれは別に必要とされてはいないですね。

―でも、すごくおしゃれじゃないですか。このお店。

私たち自身は自分たちのお店を、当たり前ですけどおしゃれだと言ったこともないし、そう言われることもあまり…。“おしゃれカフェ”とかって言葉自体がもう嫌ですね(苦笑)。

―その理由を聞いてもいいですか?

なんかおしゃれって、時々裏腹にこう、ネガティブな表現のときがありますよね。カフェにはおしゃれってあまり必要ない形容詞な気がしていて、もうちょっと違う言葉を探せばいいのにと思うことがあるんです。…ダメですね。余計なことを言っちゃいそうなのでこの話はやめましょう(笑)。

―(笑)。今日、スメドレーのニットポロにドリスヴァンノッテンを合わせている池田さんを見ていて、ファッションがお好きなのはすごく伝わってきました。だから、余計に意外だったんです。

美大に行きたいと思ってアトリエに通って受かったのが服飾科で、別にファッションは嫌いじゃなかったし、それこそ「うん、おしゃれだよね!」って言われたらいいなとは思ってたから(笑)、そこに入ったんです。だけど、私は“こんな素敵なものがつくりたい!”と思っても、それが具現化できなかったんです。元々のイメージが乏しいから出来上がるものもやっぱり不明瞭で。だから、私は洋服は好きだと思っていたけど、あまり掘り下げられていないところを見ると、生み出したいと思うほど好きでもなかったんだなって気づいて。

―好きな気持ちに貴賎はないと思いますけど、度合いは色々ですもんね。

それで飲食の仕事に携わるようになって自分でも料理をつくり出すんですけど、料理はイメージもかなり明確に持てたし、それを具現化もできるから、これはできるなって。

―池田さんからはすごく地に足がついている印象を受けるんですが、服選びで背伸びしたりもされるんですか?

それはもう! 女子美に行ってからは背伸びしっぱなしでしたね。何せおしゃれと言われたくて入ってるので、それはしょうがない(笑)。ジョン スメドレーはその頃から着てました。服飾科に入ったけど、すごくデザインされたものを着ようとはあまり思っていなくて。周りを見ればデザイナーズ、アントワープ6なんかの話題も多かったけど、私はそれよりも“いいものを知ってる若い人”になりたかったんだと思います(笑)。ジョン スメドレーには、いいものを着てるっていう満足感がありました。今回も、当時着ていたような紺のニットにしようかと思ったんですけど、この色にしました。

―それは、どんな理由で?

このカラーの、"ALMOND"っていう名前が可愛いなと思って。私は普段からアーモンドパウダーを使ってるし、いつも使ってる洗双糖っていう砂糖に色合いが似てるなって。

―それはもう、おしゃれですよ(笑)。やっぱり調理室池田はおしゃれなお店です。

(笑)。でも、おしゃれかどうかはわからないですけど、スタイルとして市場で買い物するっていうのがあってもいいよな、っていうのは、実は川崎市への最初のプレゼンのときに話しました。


“この姿勢でやり切ることが格好いいと思っています“


―川崎市の方はその話をすぐ理解してくれたんですか?

いえ、「ここに一般の人が来ておもしろい? こんなおしゃれでも何でもない場所に」みたいな反応でした。「それこそ、あなたが前の会社でやっていたように、青山とか代官山でやる事業じゃないの?」って。

―すごく真っ当な疑問ですよね(笑)。

そうですね(笑)。でも、例えばインスタグラムで、「すごい高級ブランドのバッグ、買っちゃった!」っていう投稿があるじゃないですか。

―はい。ちょっと鼻につきますけど、いっぱい見ますね。

(笑)。もちろん、それが素直でいいなと思うときもあるでしょうし、キャラ次第だとも思うけど。でも、その一方で、「無農薬の大根を買いました」とか「ピカピカの露地物を見つけた!」っていうような投稿もありますよね。多分、そうした堅実さを感じる消費行動はみんなに発信したくなる生活のひとコマだと思うんですよ。「アジやイワシをスーパーで買うんじゃなく、わざわざ市場にきて選んで買うことに価値や楽しさを感じる人もたくさんいるはずだから、一般の人は絶対にくるし、そうした消費行動が今の時代には合っていると思います!」って。

―真に迫るようなプレゼンだと感じます。調理室池田の営業時間が異様に早いのは、市場時間に合わせていたからなんですね。

うん。市場の人たちから見たらよそ者が来るわけだから、絶対に市場の習慣に合わせようと思って。今もそうですけど、4時に来て、7時にはお店を開ける。それでも市場の人たちからしたら遅くて、「5時からやってよ」とかって言われることもあります(笑)。多くの人は4時にはもう働いてるから、頭が上がらないですよね。それが格好いいなと思います。だから私たちも、飲食店としてこの姿勢でやり切ることが格好いいと思っています。そこにおいしいだとか、おしゃれだとかがなかったとしても。7時にお店を開けて、サンドイッチを出して、コーヒーを出して、って。

―実際にツナメルトをご馳走になりましたけど、本当においしかったですよ。

ありがとうございます。お店を始めるときに元々仲のよかった八百屋さんと話していて、「(北部市場で)何が食べたい?」って聞いたら、「パンが売ってないからパンにしてくれ」と言われて。なるほど、パンかと。で、「俺はホットドッグが食べたい」って言われたんですけど、「せっかく魚屋があるんだから…」と私が言ったら、「じゃあマグロ屋に行くか!」って、マグロ屋さんを紹介してもらったんです。マグロでパンなら、ツナサンドをやろうかなって。ここで働く人にとってはボリュームが少なめだったりして、完全に彼らの思考に合わせられてるわけではないけど、彼らの仕事を邪魔しないように、勝手なことをしないように、寄り添うような形で商売させてもらえたらなっていうのはずっと意識していたことです。

―地域社会というか、コミュニティとのすごく健全な関係性ですね。

一番最初に、この関連棟の全員には名刺を配って挨拶に行きました。それで、もちろん怪訝な顔をする人もいるんですけど、どちらかというとその方がスタンダードだと思っていました。でも、実際に始めてみたら私のような者でも尊重してもらえるし、とにかくみんなが店を開けてる時間は誰も来なくても自分たちも店を開け続けて、みんなが休まない日は休まない。それを続ける中で、危機になる前に何とかなったっていう感覚です。

―川崎市の方はその話をすぐ理解してくれたんですか?

いえ、「ここに一般の人が来ておもしろい? こんなおしゃれでも何でもない場所に」みたいな反応でした。「それこそ、あなたが前の会社でやっていたように、青山とか代官山でやる事業じゃないの?」って。

―すごく真っ当な疑問ですよね(笑)。

そうですね(笑)。でも、例えばインスタグラムで、「すごい高級ブランドのバッグ、買っちゃった!」っていう投稿があるじゃないですか。

―はい。ちょっと鼻につきますけど、いっぱい見ますね。

(笑)。もちろん、それが素直でいいなと思うときもあるでしょうし、キャラ次第だとも思うけど。でも、その一方で、「無農薬の大根を買いました」とか「ピカピカの露地物を見つけた!」っていうような投稿もありますよね。多分、そうした堅実さを感じる消費行動はみんなに発信したくなる生活のひとコマだと思うんですよ。「アジやイワシをスーパーで買うんじゃなく、わざわざ市場にきて選んで買うことに価値や楽しさを感じる人もたくさんいるはずだから、一般の人は絶対にくるし、そうした消費行動が今の時代には合っていると思います!」って。

―真に迫るようなプレゼンだと感じます。調理室池田の営業時間が異様に早いのは、市場時間に合わせていたからなんですね。

うん。市場の人たちから見たらよそ者が来るわけだから、絶対に市場の習慣に合わせようと思って。今もそうですけど、4時に来て、7時にはお店を開ける。それでも市場の人たちからしたら遅くて、「5時からやってよ」とかって言われることもあります(笑)。多くの人は4時にはもう働いてるから、頭が上がらないですよね。それが格好いいなと思います。だから私たちも、飲食店としてこの姿勢でやり切ることが格好いいと思っています。そこにおいしいだとか、おしゃれだとかがなかったとしても。7時にお店を開けて、サンドイッチを出して、コーヒーを出して、って。

―実際にツナメルトをご馳走になりましたけど、本当においしかったですよ。

ありがとうございます。お店を始めるときに元々仲のよかった八百屋さんと話していて、「(北部市場で)何が食べたい?」って聞いたら、「パンが売ってないからパンにしてくれ」と言われて。なるほど、パンかと。で、「俺はホットドッグが食べたい」って言われたんですけど、「せっかく魚屋があるんだから…」と私が言ったら、「じゃあマグロ屋に行くか!」って、マグロ屋さんを紹介してもらったんです。マグロでパンなら、ツナサンドをやろうかなって。ここで働く人にとってはボリュームが少なめだったりして、完全に彼らの思考に合わせられてるわけではないけど、彼らの仕事を邪魔しないように、勝手なことをしないように、寄り添うような形で商売させてもらえたらなっていうのはずっと意識していたことです。

―地域社会というか、コミュニティとのすごく健全な関係性ですね。

一番最初に、この関連棟の全員には名刺を配って挨拶に行きました。それで、もちろん怪訝な顔をする人もいるんですけど、どちらかというとその方がスタンダードだと思っていました。でも、実際に始めてみたら私のような者でも尊重してもらえるし、とにかくみんなが店を開けてる時間は誰も来なくても自分たちも店を開け続けて、みんなが休まない日は休まない。それを続ける中で、危機になる前に何とかなったっていう感覚です。



―実際にお店を続けてみて、見つけた光明があったら教えてください。

それは元々狙っていたことなんですけど、結局市場に買い物に来るのっていろんな飲食店の人たちなので、そういう人たちがいろんなヒントを落としていってくれるんです。寿司屋の人も多いし、かと思えばイタリアンのシェフが来たりと、料理人が集まるお店になってきました。

―お店の2階でアンティークの食器がたくさん売っていて驚きましたけど、そういう方々が出入りすることを踏まえての提案だったんですね。

はい。そうやって情報交換の場になれば、っていうのは主人が最初に立てたコンセプトにもあったんです。「あの魚、いつもどうやって処理してますか?」とかって、お寿司屋さんを捕まえてすごい聞いてますね(笑)。

―こうして池田さんのお話を聞いてきて、意志の強さと柔軟さが両方感じられるのがすごく新鮮でした。

だから、場所に合わせるっていうことが大事ですね。自分たちがやりたいことより、そこに合わせたことだとか、必然性のあることをやること。筋書きが成り立つものをやると、他の人がなかなか真似できないような個性にはなると思います。他がやったことのない状態に、自然となるから。

―むやみな差別化よりもそうやって本当の個性が生まれる方がグッときますね。

それに、やっぱり料理人にとっては食材の買い付けはすごく重要な仕事で、それが現物を見てできるっていうのはすごくありがたいことなんです。ましてやうちみたいに喫茶店ぐらいの業態で、モノをいちいち選んで買ってくるなんて普通はまずなくて、食材の総合卸しとかに頼んで、レ点だけ打って持ってきてもらうっていう感じなので。だから、こんなに幸せなことってないですよ。

―実際にお店を続けてみて、見つけた光明があったら教えてください。

それは元々狙っていたことなんですけど、結局市場に買い物に来るのっていろんな飲食店の人たちなので、そういう人たちがいろんなヒントを落としていってくれるんです。寿司屋の人も多いし、かと思えばイタリアンのシェフが来たりと、料理人が集まるお店になってきました。

―お店の2階でアンティークの食器がたくさん売っていて驚きましたけど、そういう方々が出入りすることを踏まえての提案だったんですね。

はい。そうやって情報交換の場になれば、っていうのは主人が最初に立てたコンセプトにもあったんです。「あの魚、いつもどうやって処理してますか?」とかって、お寿司屋さんを捕まえてすごい聞いてますね(笑)。

―こうして池田さんのお話を聞いてきて、意志の強さと柔軟さが両方感じられるのがすごく新鮮でした。

だから、場所に合わせるっていうことが大事ですね。自分たちがやりたいことより、そこに合わせたことだとか、必然性のあることをやること。筋書きが成り立つものをやると、他の人がなかなか真似できないような個性にはなると思います。他がやったことのない状態に、自然となるから。

―むやみな差別化よりもそうやって本当の個性が生まれる方がグッときますね。

それに、やっぱり料理人にとっては食材の買い付けはすごく重要な仕事で、それが現物を見てできるっていうのはすごくありがたいことなんです。ましてやうちみたいに喫茶店ぐらいの業態で、モノをいちいち選んで買ってくるなんて普通はまずなくて、食材の総合卸しとかに頼んで、レ点だけ打って持ってきてもらうっていう感じなので。だから、こんなに幸せなことってないですよ。



池田宏実|いけだひろみ

1973年生まれ、神奈川県出身。美術短大を卒業し、最初に入社した会社でフード事業部に配属されたことをきっかけに、飲食や料理に携わる半生を送る。いわく、「小学生時代に、インスタントラーメンにハムを入れてみたら出汁が出ると気づいたこと」が自身の料理の原体験。2018年、旦那さんとともに川崎市中央卸売市場北部市場で「調理室池田」を始めた。


Instagram: @ikeprox

池田宏実|いけだひろみ

1973年生まれ、神奈川県出身。美術短大を卒業し、最初に入社した会社でフード事業部に配属されたことをきっかけに、飲食や料理に携わる半生を送る。いわく、「小学生時代に、インスタントラーメンにハムを入れてみたら出汁が出ると気づいたこと」が自身の料理の原体験。2018年、旦那さんとともに川崎市中央卸売市場北部市場で「調理室池田」を始めた。


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